死んだ人が、いつまでも生き続けられる場所

アスナは、ユウキの主治医である倉橋に「ユウキの容態が急変した」というメールを受け、横浜港北総合病院へ向かう。ユウキの手を握るアスナ。最後はALOの、初めてユウキと出会った場所で。

アスナは、病院で、もう目を開けないユウキの、ボロボロになった体を見ている。ユウキの葬式に出て、ユウキの遺体が火葬されるところを見たし、骨も拾った。でも、アスナは生身のユウキと会話をしたことはないのだ。ALOの中で、快活に笑い、最強の剣技をあやつるユウキしか知らない。


人間が死ぬと、記憶の中に残る。肉体は骨になり、土の下に埋められる。
よく考えると、生きている人間でも、その生身がどこにあるかなんて気にならない。顔があって、表情があって、彼・彼女がどんな反応を返してくれるか。そういう期待が、記憶の中に棲んでいるだけだ。

病院で朽ちたユウキの体ではなく、笑い、動くユウキの顔。
アスナはきっと、ユウキのことをそのように記憶している。



ところで、死んだ人はどこで生きているのだろうか。
当然、死んだ人が生きられる場所なんてどこにもない。

ALOの中でアスナは、ゲーム内メッセージの宛先に「Yuuki」を見るだろう。メッセージを送ることもできる。決して受け取ってくれないユウキに、ログインすることのないユウキに、メッセージを送り続けることができる。

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たまに見るユウキのログイン状態の欄には「ログオフ」と表示されたままだ。学校に通うキリトやアスナが、その間ログオフしているのと似ている。ゲームの中のユウキしか知らないアスナ。ユウキがログインすることはない。いつまでもログインしないユウキが、次にログインするのはいつだろうか。


黒鉄宮の剣士の碑、第27層に、アスナとユウキの名前が刻まれている。アスナはこれからも、フロアボス討伐者の欄に名前を刻んでいくだろう。ユウキの名前は、27,28,29層に刻まれたままで、増えることはない。ユウキが石碑に新しく名前を刻むことは、もうない。

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それでも、アスナが新生アインクラッド第1層の黒鉄宮に降りると、そこにはユウキの名前が刻まれたままの剣士の碑がある。刻まれたまま。アスナとユウキの名前が揃って刻まれた、ただ一つの場所。







オリジナルソードスキル「マザーズ・ロザリオ」はアスナが継承した。アスナはファーストモーションをなぞることで、ユウキが作ったソードスキルを発動することができる。天賦の才がシステムの限界に挑戦したソードスキルは、今はアスナの固有スキル欄に書かれている。


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「技の名前はマザーズ・ロザリオ。きっと、アスナを守ってくれる。」





ところで、死んだ人はどこで生きているのだろうか。
死んだ人が生きられる場所はどこにもない。


どこにもいないのに、ユウキが生きた痕跡は、いろんな場所にある。
アスナのソードスキルの欄には「マザーズ・ロザリオ」がある。
ユウキがアスナを守り続けようとした意志は、そこに残り続ける。